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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)923号 判決

控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という)

社団法人

京都西山霊園

右代表者元理事

平松茂子

右訴訟代理人弁護士

小西清茂

若松芳也

山口義治

被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という)

平松博

右同

片岡憲男

右同

太田隆三

右同

中川清

右同

荻野武

右五名訴訟代理人弁護士

金川琢郎

右同

河本光平

右同

堀和幸

主文

一  控訴人の本件控訴を棄却する。

二  趣旨訂正に基づき原判決主文1項のとおり訂正する。

被控訴人らが控訴人定款一四条に基づく前任理事の職務を行う地位を有することを確認する。

三  附帯控訴につき

1  次の控訴人の各決議がいずれも不存在であることを確認する。

(一)  昭和五六年二月二日開催の臨時会員総会における、吉田市太郎を理事に選任する旨の決議

(二)  同年三月一六日開催の臨時会員総会における、森蔭彬韶、阪口晃、芝田英を夫々理事に選任する旨の決議

(三)  同年一〇月一六日開催の臨時会員総会における、平松茂子、平松修、平井隆、平井博、吉田市太郎、南貞子を夫々理事に選任する旨の決議

2  被控訴人らの控訴人に対する、京都地方法務局の控訴人の登記簿中、別紙登記目録(一)ないし(三)記載の登記の各抹消登記手続を求める訴えを却下する。

四  控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用はこれを五分し、その一を被控訴人らのその余を控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

(本件控訴につき)

1 原判決1項(趣旨訂正後のもの)を取り消す。

2 被控訴人らの定款一四条による地位確認を求める訴えを却下する。

3 被控訴人らの前項確認請求を棄却する。

(附帯控訴につき)

4 被控訴人らの附帯控訴を棄却する。

5 被控訴人らの附帯控訴によるすべての訴えを却下する。

6 被控訴人らの主位的及び予備的請求をすべて棄却する。

(訴訟費用につき)

7 訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

(本件控訴につき)

1 主文一項同旨

(ただし、原判決主文1項にかかる請求の趣旨を主文二項同旨に訂正する)

(附帯控訴につき)

2 主文三1項同旨

(右主文三1(三)の予備的請求として)

3 控訴人の昭和五六年一〇月一六日開催の臨時会員総会における、平松茂子、平松修、平井隆、平井博、吉田市太郎、南貞子を理事に各選任し、政春一平、岸田良夫を監事に各選任する旨の決議を取り消す。

4 控訴人は被控訴人らに対し、京都地方法務局の控訴人の登記簿中、別紙登記目録(一)ないし(三)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。

(訴訟費用につき)

5 控訴及び附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  被控訴人らの請求原因

1  控訴人は祖先崇拝等を目的として、公園墓地及び納骨堂の造成管理等の事業をなす公益法人である。

2  控訴人の昭和五三年以降の定款の定めは別紙定款(以下「定款」という)規定どおりである。

3(一)  被控訴人ら(以下、各自を「博」「片岡」「太田」「中川」「荻野」という)及び昭和五五年一一月一〇日死亡の亡平松基治郎(以下「亡基治郎」という)、平松茂子(以下「茂子」という)、平松修(以下「修」という)、平井隆、平井博、同五六年五月一五日死亡の亡安田茂登治(以下「安田」という)の六名(以下右一一名を「争いのない理事」という)は、会員であるところ、昭和五三年五月二九日、控訴人の会員総会(以下「総会」という)において、各理事に選任され、ついで、被控訴人らは昭和五七年一一月二七日開催の臨時総会(以下「11.27総会」という)において、各理事に選任されたので、被控訴人らは、いずれも右選任後理事の任期三年経過後においても、定款一四条に基づき、後任理事就任までの間理事の職務を行う地位(以下「定款一四条による地位」という)にあるが、控訴人はこれを争う。

(二)  11.27総会決議について、(1)昭和五六年一〇月一日控訴人専務理事博は、理事長基治郎死亡による定款一二条二項に基づく理事長の職務代行権限により前項理事九名に対し同月一二日ホテルフジタにおける理事会を招集し、同日の理事会(以下「10.12博派理事会」という)において、被控訴人らが出席し、そこで、全員一致を以って定款一四条による地位に基づき理事長に博を、専務理事に中川を各選任する旨等の決議(以下「10.12博派理事会決議」ともいう)がなされ、右同人は即刻各就任を承認した。(2)理事長博は昭和五七年一一月一六日付で別表記載争いのない会員一四人に対し、同月二五日付臨時総会をホテルフジタに招集したところ、委任状による出席者桂哲雄、隆、茂子、修、南、被控訴人ら五名、阿賀愛夫、田附新次郎の計一二人が出席し、博が過半数の賛成により議長に選出され、審議に入り、任期満了理事、監事の選任(第三号議案)につき、被控訴人ら五名を新理事に、阿賀愛夫、田附新次郎を新監事に選出する旨等、七人の賛成多数により決議(以下「11.27総会博派決議」ともいう)がなされ、右同人らは即刻各就任を承諾した。

4  控訴人の法人登記簿には別紙登記目録(一)ないし(三)のとおりの登記(以下「(一)登記」などと番号により表示し、右(一)ないし(三)登記を「本件各登記」ともいう)がなされており、控訴人は前項登記原因として、(一)登記につき、昭和五六年二月二日開催の臨時総会における吉田市太郎(以下「吉田」ともいう)を理事に選任する旨の決議(以下右総会を「2.2総会」、同決議を「2.2総会決議」という)が有効になされた旨、(二)登記につき、同年三月一六日開催の臨時総会における、森蔭彬韶、阪口晃、芝田英(以下「森蔭」、「阪口」、「芝田」という)を理事に各選任する旨の決議(以下前同様「3.16総会」「3.16総会決議」という)が有効になされた旨、(三)登記につき、同年一〇月一六日開催の臨時総会における、平井隆(以下「隆」という)、茂子、修、平井博、吉田、南貞子(以下「南」という)を理事に各選任する旨の決議(以下前同様「10.16総会」「10.16総会決議」と、以上三決議を「本件各決議」という)が有効になされた旨、各主張する。

5  しかしながら、前項各決議は次のとおりの重大な瑕疵により、いずれも不存在であり、そうでなくても、10.16総会決議は瑕疵に基づき取消されるべきものであり、右各登記原因とされた議事録は事実に反するものである。

(一) 2.2総会決議 (1)そもそも決議自体がなされていないまま散会となった上、(2)招集通知もれが著しく、(控訴人主張どおりとしても右当時の会員は後記六3(一)のとおり三〇人をこえず、そうするとうち一三人にしか通知がない)、(3)非会員が多数審議に参加している(右控訴人主張によっても、別表(19)、(20)、(33)ないし(35)の多数)、の各瑕疵がある。

(二) 3.16総会決議 (1)定款二〇条による請求に基づき招集されたとされるが、右請求は定足数が不足しており、(2)招集権限に瑕疵があり、(3)招集通知もれが著しく(仮に会員三〇人としても一八人にしか招集通知がない)、(4)定足数不足(三〇人中出席者九人)のため総会が成立していない、(5)(一)同様非会員参加、の各瑕疵がある。

(三) 10.16総会決議 (1)招集権限に瑕疵があり、(2)招集期間不遵守(定款上同期間短縮制度なく、全員の同意もない)、(3)招集通知もれが著しく(仮に別表(36)を加え会員三一人としても一三人にしか招集通知がない)、(4)前(一)同様非会員参加、の各瑕疵がある。

以上のとおり(一)ないし(三)登記原因とされる右各決議には多種の瑕疵が存するが、控訴人は亡基治郎死亡後、同五五年末頃以降博派と茂子派の二派に分かれて抗争しているところ、通常、手続が定款法規どおりに履践されないことが多い小規模公益法人にあっても、このような抗争時においては、手続は厳格になされなければならず、右瑕疵は個別的にも、総体的にも重大というべく、各決議の法的不存在をもたらすものである。

そして、11.27総会後控訴人において総会・理事会は開催されず、右本件各決議で選出されたとされる理事の後任者は選任されないまま現在に至っている。

6  したがって、本件各登記はいずれも登記原因を欠き、登記事項につき無効の原因(商業登記法一〇九条一項二号)があるというべく、被控訴人らは定款一四条による地位に基づき右無効登記の是正をなす必要があるから控訴人に対し、右各登記の抹消登記請求権を有する。

7  よって、被控訴人らは、定款一四条による地位に基づき、控訴人に対し次のとおり請求する(なお、原判決主文2項の各決議無効確認請求、同3項登記抹消請求はいずれも取り下げ済みである)。

(一) 被控訴人らが11.27総会決議、そうでなくとも、昭和五三年五月二九日総会決議により各選任された理事の地位に基づく、定款一四条による地位に現に存することの確認。

(二)(附帯控訴による請求)(イ)本件各決議の不存在確認、(ロ)(予備的に)10.16決議の取消、(ハ)本件各登記の抹消登記手続の履行。

二  控訴人の本案前の抗弁

1  被控訴人らは本件各確認と登記抹消を求める当事者適格及び利益を失った。すなわち、後記抗弁五主張のとおり、被控訴人らは冥加金不納付のため退会したものとみなされ、定款一四条による地位及び爾後理事に選任されるための各基礎たる地位を失った。また、10.16総会決議、ついで11.27総会茂子派決議において、被控訴人らの後任理事として茂子外八名が選任されたため若しくは被控訴人らの選任を否決されたため、いずれにしろ同一四条による地位を失った。したがって同一四条による地位の確認についてはいうまでもなく、右地位に基づく本件各決議を争い、同決議を原因とする本件各登記の抹消を求める訴訟の当事者適格及び利益をも失うからである。

2  10.16選任理事のうち平井隆は昭和六一年一月二八日死亡したので、さらに、3.16総会決議、10.16総会の各決議について仮に瑕疵ありとしても、後記のとおり、11.27総会決議において、右両決議が有効である旨の追認決議がされているから、右瑕疵は治癒済みであって、右両決議、若しくは10.16総会決議のうち平井隆についての部分は、これを争う利益が喪失した。

3  10.16決議取消請求訴訟は10.16決議後三ヶ月経過の後に提起されたことが明らかであるから商法二四八条により許されない。

4  本件各登記抹消請求訴訟は被控訴人らにおいて、昭和六二年六月三日付準備書面で一旦取り下げ、控訴人の同意をえたものであるから、民訴法二三七条二項に反し再訴は許されない。

三  前項主張に対する被控訴人らの認否、反論

1  前項主張1のうち、10.16総会、11.27総会において茂子外八名が選任されたことは否認し、その余は争う。右各総会茂子派決議に関する反論は後記(六)記載のとおりである。

2  同2のうち、隆死亡の事実は認めるが、その余は否認する。11.27総会決議に対する反論は前同である。

3  同3は否認する。

4  同4のうち事実経過は認めるが、その余は争う。口頭弁論において裁判所より本件各訴と請求の適否、成否につき種々釈明があり、本件各登記請求訴訟を一旦取り下げたが、慎重調査検討の上同訴必要と請求権の存在を確信して再訴に至ったもので、民訴法二三七条の二項の制裁的趣旨目的に反しないことが明らかである。

四  控訴人の本案の答弁と主張

1  請求原因1及び2はいずれも認める。

2  同3(一)は、そのうち被控訴人らが11.27総会博派決議により各理事に選任された事実は否認し、その余は認める。

同(二)(1)は、そのうち博が主張の頃主張場所に理事会を招集したこと、同通知が争いない理事に対してなされたことは認めるが、その余は否認する。

仮に右選任決議がなされたとしても、10.12博派理事会は、当初から、会場入口において、2.2総会、3.16総会で有効に選任された理事である芝田、森蔭、阪口、及び旧来からの理事、茂子、修、隆(以下「茂子派理事」ともいう)の入場を暴力で排除してなされた重大な瑕疵が存し不存在という外ない。

同(2)は、そのうち、招集手続、出席会員の点は認めるが、その余は否認する。11.27総会博派決議なるものは、当日博が議長に選任されていないのに、適法に議長として選出された修による後記議事の傍でわめいていたに過ぎず、表決も、主張の選任決議もなされておらず、仮になされたとしても、議長資格のない博によるもので重大な瑕疵があり法的に不存在という外ない。かえって、11.27総会及び同決議の真相は後記抗弁記載のとおりである。

3  同4は認める。

4  同5は、そのうち11.27総会後、控訴人において本件各決議により選任されたとする理事(別紙登記登録記載の者)の後任理事が現在まで選任されていないことは認め、その余は否認する。

5  同6は否認する。後記のとおり、本件各登記はその登記原因が存在しかつ有効であるから、実体に真実合致しており、抹消登記請求権の発生の余地はない。

五  控訴人の抗弁、本件各決議の適法及び成立要件並びに主張

1  被控訴人らは会員資格を失った。定款一二条二項の「事故」には理事長の死亡が含まれず、この場合には民法五三条の理事の各自代表が原則によることとなるところ、昭和五六年一〇月一二日博がホテルフジタ別館に招集した理事会において、茂子派理事の出席を暴力ではばまれたため、茂子は理事として右権限に基づき、右理事会の会場を適法に京都ホテルロビーに変更して理事会(以下「10.12茂子派理事会」という)を続行した。そこで茂子が議長となり、理事長に同人を、専務理事に修を各選任する旨決議がなされ、同人らは各就任を承諾した。ついで追加議案(会員確定の件)として、一年以上会費(冥加金一万円)を未納の会員は、同年一〇月一五日までに納入すべく、右期限迄に納入しない会員は、定款八条二項二号により退会したものとみなして除名する旨の提案があり、全員一致で決議された。しかるに、被控訴人らはいずれも右期限内に冥加金を納入しなかったため、退会とみなされ、会員資格を失い、したがって、これを基礎とする定款一四条による地位も失ったのみならず、爾後もはや理事に選任されるための前提資格をも失った。

2  定款一四条による地位は後任者就任がその終期であるところ、後記のとおり、(一)10.16総会で茂子ら六名が被控訴人らの後任者として選任され、(二)そうでなくても、11.27総会で被控訴人らの後任者として右茂子ら六名が新しく選任されたものというべきである。すなわち、同五六年一二月二八日京都地方裁判所同年(ヨ)第九六七号仮処分事件において被控訴人らの理事の地位を仮に定める仮処分決定があったので、会員扱いをすれば同五七年一一月二五日当時の会員数は別表記載のとおり三〇人であり、うち二三人が出席し、修を多数決により議長に選任し、博通知の議案、一号(3.16総会、10.16総会の各決議の無効確認の件、10.16総会で選任されたとする茂子、修、隆、平井博、南、吉田(以下「10.16選任理事」という)を解任する件、3.16総会で選出されたとする森蔭、芝田、阪口(「3.16選任理事」という)を解任する件)、二号(控訴人の名誉を毀損し定款に反する行為をなした会員の同九条により除名する件)、三号(理事並びに監事を改めて選任する件)を順次審議し、多数決により、一号については各総会の有効確認、各解任の件の否決、二号については、除名すべき会員の不存在、三号については、被控訴人らの選任の否決の各決議(以下「11.27総会茂子派決議」ともいう)をなした。右一連の決議によって、右3.16選任、10.16選任各理事計九名が新しく選任されたものというべく、同人らの控訴人の理事たる地位は確定した。

3  本件各決議の適法及び成立要件

(一) 会員の資格と数

(1) 定款七条によれば、控訴人の会員資格の取得要件は控訴人(代表者理事長)に対し入会申込書を提出することで足りる。

そして、基治郎死亡後は茂子も個別代理権に基づき入会申込書の受領権限を有することとなる。

(2) 控訴人の会員の入会、退会等による会員資格喪失日時は別表記載のとおりで、基治郎死亡後の入会申込書は理事茂子が受領したものであり、右入会日時が右のとおりでないとしてもおそくとも2.2総会直前には入会していた。また右同(22)ないし(26)(以下「確定判決会員」ともいう)は、各最終口頭弁論期日が昭和五七年二月以降同年七月二一日までの間であった会員の地位確認の確定判決をえている。

(二) 2.2総会と同決議

(1) 博も理事として招集権に欠けることなく、招集通知の相手人数、当日の出席会員の状況は別表記載のとおりである。たしかに招集通知もれが存するが、(イ)もともと控訴人の設立の経緯、運営の実態は、基治郎の個人的色彩の強い、いわゆる同族的団体として会員数も少なく意思の疎通も十分であり、同人のワンマン経営により各種定款手続規定を厳格に遵守する必要もないままに組織運営されて来たものである(以下「控訴人の同族団体性」という)。このような団体の公益法人においては、たとえ法及び定款上の手続規定が遵守されないことがあっても、会員相互の実質的利益の侵害がないかぎり、瑕疵が重大と評価すべきでない。(ロ)招集通知もれの会員も委任状により又は現実に出席している。(ハ)招集通知もれの相手の殆んどが従来総会にも殆んど出席したこともなく経営業務に関与したこともなく、経営に無関心な者ばかりであった。以上(イ)ないし(ハ)に照らし、右招集通知もれの瑕疵は到底重大とはいえず、日笠山が非会員であったとしても、瑕疵というほどでない。

(2) 右総会は招集場所である控訴人休憩所において、定刻午前一〇時を少しおくれ開催され、博が議長となって審議され、そこで、吉田を全員一致で新理事に選出する旨決議がなされた。さらに、続いて開催された理事会においても、荻野が独り賛否の意思表示を留保したのみで、他の吉田を含む理事全員の賛成により隆を新理事長にする旨の決議がなされている。なお、被控訴人ら主張の約束手形の処理をめぐる議論はあったものの、これは右決議の成立と関係がない。また、博が政春一平らの新会員を無法に排除しようとしたために混乱があったことはたしかであるが、博派自体も吉田のみの理事選出を自ら提案し全員一致で可決することによりおさまっている。

(三) 3.16総会と同決議

(1) 昭和五六年三月一日定款二〇条に基づき、会員総数三六人の五分の一以上の人数にあたる別表(5)、(15)ないし(21)の八人の会員より控訴人宛に同日付同月二日到達の書面で、理事及び理事長を改選する件、昭和五四年度分決算審議の件なる会議の目的たる事項を示して、理事会及び臨時総会招集の請求がなされた。右請求に定款上の瑕疵はない。

(2) 右請求を受けて、理事長隆は定款一九条に基づき、同月五日付その頃各会員に到達の右請求にかかる会議の目的事項を示す書面によって、同月一六日午後二時京都教育文化センターに会員総会の招集をなした。右招集通知の相手、人数、当日の出欠状況は別表記載のとおりである。

したがって、右招集権、招集手続に何ら定款上の瑕疵はなく、会議成立の定足数(定款二二条)、出席資格にも欠けるところはない。右招集通知もれについても、前(二)(1)(イ)ないし(ハ)同様の理由により、また招集期間が足りなかったとしても、わずかであり、いずれにしろ瑕疵として重大でない。

(3) 議事は出席者全員の賛成により選出された森蔭が議長となって審議し、前記3.16選任理事三名を選任する旨右同全員の賛成により決議した。なお、右三者は直ちに就任を承諾した。

(四)10.16総会と同決議

(1) この間昭和五六年三月二八日京都地方裁判所昭和五六年(ヨ)第一四七号仮処分事件において、隆の理事長、吉田の理事の各職務執行停止の仮処分決定があり、同年五月二九日争いのない理事の任期が満了したところ、前記のとおり同年一〇月一二日の10.12茂子派理事会において、茂子が新たに理事長に選任され、定款により控訴人の代表権は同人に専属することとなり、他方前記のとおり、同月一五日までに別表(7)ないし(14)の会員は冥加金不納付により会員資格を喪失し、結局会員数は二八人となった。

(2) 理事長茂子は同年一〇月一六日、同午前九時三〇分隆宅において、理事及び監事選任の件等の会議の目的事項と内容を示して臨時総会を開催する旨決定して、別表記載のとおり招集通知をなし、右通知を受けた会員二一人全員は即時、定款一九条の招集期間短縮につき書面により同意をなし、別表記載のとおり全員が出席した。右招集通知もれが瑕疵にあたらず、仮にあたるとしても重大でないことは前記(二)(1)(イ)ないし(ハ)と同様である。

(3) 会議は右定刻招集場所において開催され、全員の賛成により茂子が議長に選出され、審議に入り、任期満了の争いない理事及び吉田の後任として前記10.16選出理事を新たに選任する旨全員の賛成により決議し、右被選任理事は直ちに就任を承諾した。

4  仮に3.16及び10.16総会決議に重大な瑕疵、若しくは取消しうべき瑕疵があったとしても、前2(二)主張のとおり、11.27総会茂子派決議により、右両決議の有効の追認決議がなされたので、遡及的に、又は11.27総会の決議以後瑕疵が治癒され、有効に確定した。

六  前項主張に対する被控訴人らの認否と主張(再抗弁を含む)

1(一)  前項主張1は、そのうち博が主張日時に主張場所に理事会を招集したこと、被控訴人らが主張期限までに冥加金を納入しなかたっことは認めるが、その余はすべて否認する。前記のとおり定款一二条二項の「事故」には死亡も含まれる。仮に10.12茂子派理事会なるものが開催され、主張決議がなされたとしても、右は茂子らが、博らの非理事森蔭、芝田、阪口の正当な入場拒否に藉口して、正当理由なく恣意的に別会場においてなした協議に過ぎず、理事会ないし決議にあたらず、しかも被控訴人ら理事に対し、変更会場、追加議案の告知もなくなされたもので、手続上重大な瑕疵があり不存在という外ない。のみならず、右決議は被控訴人らに告知すらされていない。

(二)  定款八条二項二号は当初から死文化した規定である。現に争いない会員も昭和五六年一〇月一五日までは冥加金を支払ったことは一切ない。したがって、前項決議は右死文化規定に基づくもので、当然無効である。

2(一)  同2は、そのうち、定款一四条による地位の終期が後任者の就任までであること、主張の仮処分決定があったこと、11.27総会の議案が主張内容の件の一ないし三号であったこと、は認めるが、その余は否認する。10.16総会決議が不存在であることは前記のとおりであり、また、11.27総会において、控訴人主張の11.27総会茂子派決議がなされていないことは茂子派の収録したテープによってすら明らかである。

(二)  仮に11.27総会において11.27総会茂子派決議がなされたとしても手続上の瑕疵が重大で法的に不存在という外ない。けだし、(1)後記(3(二))のとおり、被控訴人らが予備的に主張する会員三〇人の外にも、同五七年一一月二〇日付で中川佳子、平松葉子、石野幸次、森井春男、水野禎次、松村鶴藏、太田皓三、太田博之、阿部邦彦、西谷忠男、澤田淳、加藤侃彦、石濱秀一、天知澄夫、冨村二郎、村治良平、平川良雄、鈴木毅、以上一八名が理事長博に対し入会申込みをなし、その承認を受けて会員となっていた。したがって同年一一月二七日当時の全会員は被控訴人の主張の三〇人を加え合計四八人であった。(2)しかるに博の招集通知は別表(1)ないし(14)の一四人にしかなされなかたっものである。この瑕疵は重大である。(3)控訴人は委任状による出席があったというが、招集者ないし議長に対し右委任状が提出ないし示されなかったので出席者扱いできず、結局出席者は一二人という外なく、そうすると会議成立の定足数にも満たないこととなり11.27総会は不成立であったというべきである。したがって、11.27総会茂子派決議なるものも不存在となることは明らかである。

3(一)  同3(一)(1)は、そのうち、定款七条に主張の趣旨の規定のあることは認めるが、その余は否認する。会員資格の取得には入会申込書提出の外に理事会の承認が必要であり、現に従来そのように運用がなされて来た。

同(2)は、別表のうち(1)ないし(14)及び(37)の計一五人(以下「争いない会員」ともいう)がおそくも基治郎死亡時である昭和五五年一一月一〇日には会員資格を取得済みである事実、右争いない会員以外の会員の退会主張事実、確定判決会員が各主張の頃終結の確定判決をえている事実は認め、その余は否認する。

なお、予備的に、入会に前記の理事会の承認が不必要であるとしても、控訴人の会員の人数入会経過についての主張は混乱はげしく、特に(19)ないし(21)、(33)ないし(35)(以下「政春一派」ともいう)のそれは矛盾に満ち、本訴までに入会申込書が存在したか疑しく、2.2総会時の会員は争いない会員の外に確定判決会員五人、(27)ないし(32)(以下「入会申込書会員」ともいう)六人の合計三〇人をこえることはない。なお右確定判決会員の取得判決は控訴人との馴れ合いによるもので事実に反し再審審理中である。

(二)  同(二)(1)は、そのうち、招集者は認め、招集通知の存否、出欠に対する認否は別表記載のとおりである。本件のように博派、茂子派に会員が分れて内紛が存するときは、法規、定款による手続は特に厳格に遵守されねばならない。同(2)は博が議長をつとめたことのみ認め、その余は否認する。安田の委任状をめぐり、さらに修の言い出した控訴人振出の約束手形の件で混乱し、結局決議に至らなかった。

(三)  同(三)(1)は、そのうち、定款二〇条による請求者のうち別表(5)、(15)ないし(18)の五名が会員であることは認めるが、その余は否認する。したがって、右請求は請求定足数に満たない。同(2)は、そのうち、隆が、主張のとおり3.16総会を招集したことは認め、その招集通知の状況、当日の出欠状況に対する認否は別表記載のとおりである。阿賀に対する通知は三月七日以後におくれたため、定款一九条の期間が不足した瑕疵がある。右非会員参加、多数の通知もれの瑕疵は重大である。同(3)は否認する。

(四)  同(四)(1)は、そのうち主張の仮処分決定があり、争いない理事の任期が昭和五六年五月二九日に満了したことは認めるがその余は否認する。

同(2)は、うち、通知、出欠に対する認否は別表記載のとおりで、茂子が招集したことは認める。控訴人の主張会員数に照らせば、前記のとおり冥加金不納入による会員資格喪失がありえないので、博派を含め一五人に通知もれがあり、また期間短縮同意によったことは認めるが、同制度は定款上規定がなく許されない。右の瑕疵は極めて著しく重大という外なく、総会自体不成立のうえ、決議も法的に不存在である。

同(3)はすべて否認する。

4  同4はすべて否認する。11.27総会茂子派決議が不存在であることは前2記載のとおりである。

七  前項再抗弁(1(二)、2(二))に対する控訴人の認否

1  同1(二)は否認する。

2  同2(二)は五2で主張した事実の限度で認め、その余は否認する。なお、通知もれの会員も自ら同総会に出席しているので瑕疵といえない。なお、博は自ら故意に瑕疵(通知もれ)を作出しながら、本訴でこれを有利に援用しようとするが、信義に反し許されない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一争いのない事実と争点

請求原因1、2、3(一)のうち、11.27総会博派決議を除くその余の事実、同(二)(1)のうち、10.12博派理事会が主張場所に主張日時付で博により招集され、同通知が争いない理事に適法になされたこと、同(2)のうち、博が昭和五七年一一月一六日付で同11.27総会を主張場所に招集し別表記載の争いない会員一四人に対し、同招集通知がなされ、少くとも主張の一二人が出席したこと、同4、同5のうち、11.27総会後控訴人主張の別紙登記目録記載の新任理事の後任理事が現に選任されていないことはいずれも当事者間に争いがない。そして、本件各決議、10.12茂子派理事会決議、同博派理事会決議、11.27総会博派、同茂子派決議の各存否と効力、その前提として、入会要件、みなし退会要件、別表会員の入会の存否、と時期、理事長死亡時の代表権限が本件の主要争点である。

二地位確認、決議不存在確認訴訟の各利益と当事者適格

控訴人は本案前の抗弁として、(一)被控訴人らが定款一四条による地位を失ったため、右両訴の当事者適格と確認の利益を共に失い、(二)3.16、10.16各決議の追認等により、右両決議の瑕疵は治癒され、その不存在確認訴訟の利益を失った旨主張する(なお(一)の主張は登記抹消請求に関してもなされているが、その点はしばらく措き、決議不存在確認訴訟のみについての訴えの利益については後に判示する)。

しかしながら、右(一)のうち定款一四条による地位の確認訴訟については争いある右地位を主張する者と法人との間に右地位につき争いが現存するかぎり、訴えの利益と当事者適格が満足され、同地位の存否は本案の問題であり、また(二)の点については決議の瑕疵の治癒はまさしく本案の問題であるから、これらの点につき控訴人の主張はいずれも本案前の主張としては理由がないが、右(一)のうち本件各決議不存在確認の訴については、被控訴人が同請求を右定款一四条による地位に基づき求めているのであるから、同地位の存否は本案前の当事者適格の問題となる。以下まず右本案前、本案の双方にかかる問題につき検討する。

三被控訴人らの定款一四条による地位の得喪(ひいてその地位の確認請求の当否)について

1  本件紛争の経緯の概略について

〈証拠〉を総合すれば次のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  亡基治郎は生前製油業等を営む株式会社二社を代表者として経営していたが、思うところがあって、昭和三九年頃私財を源資として霊園事業を始めたところ、右事業の発展、永続性を考え、社団法人化することとし、被控訴人片岡、同荻野、同太田、同中川らの援助協力を得て、同四二年二月二九日定款三条記載事項を目的とする公益法人を設立し、別表争いのない会員、そのうち争いのない理事が中心となって、基治郎の親族、親しい知人による同族団体として発足した。なお亡基治郎の妻が控訴人代表者茂子で、その間の長男が博、長女中川佳子の夫が中川、二女が別表(27)、その夫が同(12)(基治郎死亡当時監事)、二男が修、その妻が同(28)、同(5)は茂子の姉妹で、各亡基治郎夫妻の親族であり、控訴人設立当時、荻野は京都府会議員として、片岡は税理士として設立手続に尽力し、隆(別表(3))は亡基治郎の死亡当時約八五才の医師、同(15)は獣医として環境衛生面でその後の控訴人に協力し、茂子の相談役的立場にあり、同(4)は同(3)の息子であり、同(6)は控訴人設立時から顧問司法書士であり、太田は設立当時から金融面の協力者であった。

(二)  控訴人の事業は、当初は用地買収を中心に進められ、この間事業運営資金に窮し、昭和四五年頃一部定款を変更して、霊園用土地の一部を売却して資金不足を解消し、その後は事業は順調に推移発展して来た。

この間博は同四六年四月一八日頃亡基治郎と意見を異にして一旦控訴人を退職し、両親に対し、爾後基治郎の遺産につき請求をしない旨約して、金三〇〇〇万円を受領し、現住居購入資金にあてたが、他での事業が成功せず、再び控訴人にもどり、爾後は控訴人の事業に専念して来た。茂子は副理事長の肩書きを与えられ、亡基治郎を補佐し、兼ねて控訴人の霊園土地の売却、使用権の譲渡等を担当するため設立された株式会社清交社の代表取締役として、控訴人の経営にも深くかかわって来た。

(三)  亡基治郎が昭和五五年一一月一〇日死亡後、茂子は自らが理事長となって控訴人を主宰することを主張し、同年一一月一八日頃会員、吉田、理事隆等の賛同をえて片岡に対し他の理事が賛成済みである旨申向け、予め、自己を理事長、隆を副理事長、吉田を新理事に選任する決議をなした旨の同年一一月一八日付社員総会議事録を作成せしめた。そこで博に他の理事の賛同により自ら理事長に就任する旨申し入れたところ、博はもともと自らが理事長となるべきものと考え、荻野、片岡の賛意をえていたため、おどろき右両名にたしかためところ、各右同意向であり、片岡は茂子にあざむかれて議事録を作成した旨のべ、右議事録の自署を取り消した。ここより会員、理事が、平松商会的運営からの脱皮を主張し、経理公開して茂子らによる使途不明金の追求をしようとする博派と、これに反対する茂子、修派に分れて対立を深めて行った。

(四)  以後、博が本訴主張のとおり理事長代行権を専務理事が専有するとの考えに立って2.2総会兼理事会を招集して理事長、理事の各選任を審議しようとしたが、後に認定するように、当日さらに双方の対立が深刻化し、別表経過表のとおり、紛争及び争訟の経過をたどり、11.27総会後は両派別々に霊園事業を行っている。

2  定款解釈上の共通争点について

(一)  被控訴人らは夫々昭和五六年五月二八日に理事の任期が満了し、以後は後任者が選任されるまでの間定款一四条による地位を有することとなるところ、控訴人は、(1)冥加金不納付により一四条による地位の基盤たる会員の地位そのものを失った、(2)10.16総会決議、11.27総会茂子派決議により被控訴人らの後任理事が新たに選任されたので、一四条による地位は終了した旨主張し被控訴人らは、(1)の不納付退会の根拠である定款八条二項二号自体が既に当初から死文化しているから、これによるみなし退会はありえず、その発動を定めた10.12茂子派理事会決議は内容上無効であり、(2)のみならず、手続上の瑕疵が重大なため10.16、11.27両決議とも不存在である旨主張し、双方、その前提問題として、定款の解釈上、入会要件(会員資格)、理事長死亡時の専務理事、その他の理事の権限につき、争いがあり、被控訴人らは前者につき、定款七条所定要件の外に理事会の承認が必要であり、後者につき同一二条二項の「事故」には「死亡」を、「代理」には「代行」を各含む旨主張し、控訴人は右を各否定し、後者につき民法の理事の個別代理原則にかえる旨主張する。そこでまず、右の点につき検討する。

(二)  入会要件(定款七条)について

入会要件については、性質上契約(合意)によることが通常といえるが、必ずしもこれに限られるものではなく、定款の定めにより、入会申込者の一方的行為によるとすることも当該法人の自由な選択に委ねられていると解すべきところ、控訴人においては、たしかに〈証拠〉によれば、昭和四八年七月八日の理事会議事録には理事長基治郎から、別表争いのない会員中(2)、(5)、(6)、(12)ないし(14)の六名を正会員にすることが提案され承認した旨の記載があり、10.12茂子派理事会議事録、10.16総会議事録には同(25)、(26)ないし(28)、(36)を新規加入会員として承認する旨決議した旨の各記載があり、11.27総会の博派議事録には博が理事長として同年一一月二〇日付で中川佳子ら一八名の入会申込を受けこれを承認した旨報告があり、会員より異議がなかった旨の記載があり、基治郎死亡時に理事であった荻野は入会手続について理事会で協議して、その結果を総会ではかるものと、博は右理事会承認がしきたりであったと各理解していたことが各認められる。しかしながら、他方前掲被控訴人片岡の供述によれば、同人は控訴人設立過程で京都府の許可手続を担当し、本件定款の原案作成、定款内容に対する府の行政指導における交渉を担当した者であるところ、同人は府に対し、入会要件につき模範定款にもあるように控訴人の定款についても理事会の承認を要する旨規定したい旨主張したが、府は控訴人は営利法人でなく公益法人であることに照らし、公益性、団体性の永続性を確保し、開かれた団体性を追求すべきであるから、承認制度は右要請に反するのでとるべきでなく、誰でも会員となりうることによる問題の発生は理事会での事実上の承認で補えば足る旨の指導をなした。そこで同片岡は右経過をふまえ、定款上理事会の承認は不必要とする制度とすることとし、原始定款を本件定款規定文どおり作成して、府の設立許可をえ、その後右定款は変更されておらず、控訴人設立後になされた理事会の承認は紹介程度の法的に意味のないものと理解していることが認められ、右に反する証拠はなく、また争いのないその余の会員について、前認定のような理事会の承認がなされたことは証拠上認められない。そして、合理的意思を推測すれば、定款七条所定の「入会申込書」とは控訴人作成備付けの特定の様式の申込書を、同「理事長」とは特段の限定の趣旨でなく法人代表者理事長すなわち法人たる控訴人を、各意味するものと推認できる。そうだとすると、控訴人の入会要件は同七条所定の手続(入会申込書の提出)が必要かつ十分要件と解すべきであって、前認定の各承認決議の議事録記載、荻野、博らの前記理解も前認定の定款作成経緯に照らし、右解釈の妨げとならず、また、前掲証人森蔭の証言、成立に争いのない甲三一ないし四七号証の存在と様式によれば、入会申込書は特定の様式の控訴人備付けのものが使用され、亡基治郎生前においては入会を勧誘する相手はそれなりに事前に審査厳選されていたことが認められるので、控訴人代表者側で同用紙を交付する相手を事前に選択できる余地もないではないから、被控訴人ら主張の誰が入会してくるか予想がつかない心配はさしてないということができる。そして他に右解釈を妨げる事情は証拠上認められない。よって右入会要件についての被控訴人らの主張は理由がなく、控訴人の主張は理由がある。

(三)  理事長死亡時の代表権(定款一二条二項)について

控訴人のように民法により設立する法人にあっては、民法上は各理事の個別代理を原則とし、定款によりその制限をなしうるとされている(民法五三条)が、一般的には法人は本件定款(一一条、一二条)のように、理事会(会議体)を設け、理事の一人(理事長、会長など)に代表権を集中し、個々の理事(平理事)は右会議体の構成員となって、右会議体における業務の意志決定に参画するに過ぎず、ここで決定された法人の意思を右代表権を集中された一人の理事が代表して執行しているのが通常である。ところでこのような法人の一般的処理における理事、会員等関係者の合理的意思を推測すれば、右のような定款の定めは特段の事情のない限り、民法の個別代理の原則を否定ないし制限すること自体を目的とするものではなく、代表権(事務執行権)を少数者に集中することによって事務執行の能率化を計る趣旨に出たものと解すべく、しかも右代表権の集中をえた者の法的関係は、平理事が自らの業務執行代表権の行使を委任する関係と解すべきであって、その関係は、本来右集中を受けた者の死亡により消滅するもの(民法六五三条)というべきである。もとより、この場合理事長等に代り次順位で右業務執行代表権を集中行使すべき者を定款上定めることは当該法人の裁量に委ねられるべきものというべきである。これを本件についてみると、本件定款一二条二項は「理事長に事故があるときは専務理事がその職務を代理する」とあるのみで、他に特段の定めもない。右文言を通常の用語例及び「代理」は本人の生存を前提とする用語であることに照らして文理解釈をなせば、右「事故」には理事長の死亡を含まず、その生存を前提とし、代表権の行使に障害あるときと解される。

そして、〈証拠〉によれば、本件定款作成当時は民法法人のモデル定款は未発刊であったが、その後発刊された定款の統一モデルでは理事長「事故」の場合には次順位者につき「理事長の職務を代理する」旨、同「死亡」の場合には「同代行する」旨の規定文言が使用されていること、控訴人においては定款上の定めはないが、理事長、専務理事の外に副理事長の呼称を付す理事を設け、理事、会員らは右を一般株式会社における社長、副社長、専務取締役の序列感覚で理解していたことが夫々認められ、右認定に反する証拠はない。そして、被控訴人ら主張のとおりとすれば、本来前記のとおり平理事との代表権の委託関係、代理権授与のいずれも本人たる理事長の死亡により消滅するのであるから(民法六五三条、一一一条)、特段の文言又は規定を設けるべきところ、これがなく、かえって本件定款の「代理」文言と抵触し、また理事長死亡後の処理に特段の規定もないので、右一般認識しか持たれていない専務理事が長期間に亘り理事長権限を代行できうることとなり、このようなことが民法の前記個別代理の趣旨、理事長制度を設けた本件定款の趣旨、平理事らの前記一般認識に沿うものか疑問である。以上のところを総合すれば、本件定款一二条二項は前記文理解釈どおり「事故」には死亡を含まず、「代理」は文字どおりの代理につきるものと解するのが相当である。そうすると、理事長死亡後の代表については、定款上特段の規定もないので、結局、民法五三条の理事の個別代理の原則にもどることとなるというべきである。

よって、右の点の被控訴人らの主張は理由がなく、控訴人の主張は理由がある。

3  冥加金不納付による被控訴人らのみなし退会(事実二1、五1、六1)の存否

(一)  10.12茂子派理事会決議の効力について

昭和五六年一〇月一二日博がホテルフジタ別館に理事会を招集したことは当事者間に争いがなく、その後茂子派理事会決議がなされるに至った経過につき、〈証拠〉中には控訴人の抗弁同旨の部分があるが、〈証拠〉に照らし俄かに措信できず、かえって、右各証拠によれば、博は10.12理事会の招集を争いのない全理事になしたところ、当日被控訴人らが理事の選任を争っている3.16選任理事である森蔭ら三人が開場に入場しようとしたため、博やその意向を受けた尾上正彦が森蔭に対し、非理事を理由に入場を阻止したところ、暴力行使といえる程の腕力は行使されず、険悪な空気になったとまでいえないのに拘らず、これを見た修は右3.16選任理事及び茂子派理事を促してその場を去ってしまい、京都ホテルロビーにおいて右同人ら六名によって茂子派理事会決議がなされたとして議事録(乙二〇号証)が作成されており、右会場移転先は被控訴人ら五名には結局通知なく、また、後記定款の冥加金不納付によるみなし退会規定(八条二項二号)発動議案は、右京都ホテルロビーで追加議案として提案され、右被控訴人らには全く事前告知なく、さらに右につき、同月一五日までに不納付者は退会とみなし除名する旨決議しながら、被控訴人らには右決議の告知もしなかった、以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はなく、後記冥加金納付者以外の控訴人が会員と主張する別表記載の会員各自に対し、右決議の周知徹底がなされたことを認めるに足る証拠はない。

右事実関係に基づいてみるに、たしかに前示のとおり茂子、修も民法の個別代理の原則により理事会を招集する権限を有する者ではあるが、右京都ホテルロビーでの茂子派理事会なるものは、博招集の理事会の会場変更とみるには、招集した博によるものではなく、又右茂子らにも変更権限があるとしても、やむをえない事情とは未だいえず、変更に当って万全の策を講じることなくなされたものとして不適法という外なく、しかも結局茂子若しくは修による定款一四条による地位に基づく新理事会招集とみる外なく、そうすると、10.12茂子派理事会決議は、招集の事前手続を全く欠いたまゝ開催されたもので、しかも、本来の議案に対し許される修正動議の域をこえていることが明らかな、前記追加議案につきなされたというべく、この手続上の瑕疵は重大というべく、右茂子派決議は不存在といわざるをえない。

(二)  のみならず、定款八条二項の効力についてみるに、〈証拠〉によれば、10.12茂子派理事会で冥加金納付が問題として取り上げられる前には、争いのない会員は入会時もその後も毎年の冥加金を納付したことがないことが認められ、後記一回の納入を除き別表会員とされる者が毎年の冥加金を納付して来た事実を認めるに足る証拠はない。そして、控訴人の公益法人性、定款上も会員に対し冥加金を毎年納入すべき義務を定める明文の規定もない事実を総合すれば、控訴人における会員の冥加金納入義務はもともとその法的義務性が疑わしく、定款八条二項二号は少くとも運用上当初から死文化していたものと推認でき、なお、〈証拠〉によれば、10.12茂子派理事会決議に基づき、別表(1)ないし(6)、(15)ないし(20)、(27)、(28)の茂子派理事に同調する会員のみが冥加金一年分一万円を各一度だけ納入した事実が認められるけれども、右事実は右推認を妨げるものではない。もっとも、このように死文化した定款規定も、定款変更により抹消されていない限り、運用を始めることができるというほかないが、それには従来の運用に照らし、会員に周知徹底の上でなされるべきものであって、仮に右運用開始の決定が理事会の一般業務執行としてなしうるとしても、前認定のとおり、右運用開始と納入期限の決定決議が被控訴人らには告知されていないのであるから、右期限到来により被控訴人らには定款八条二項二号の当然みなし退会の規定の適用要件が未だ具備していないというべきである。

(三)  以上の次第で、いずれにしろ、被控訴人らは定款八条二項二号によるみなし退会の適用を受けておらず会員資格を失っていないというべく、この点の控訴人の抗弁は理由がない。

4  控訴人の会員数とその入会時期について(事実一3(二)、五2(二)、3(一))

(一)  以下本件各決議、11.27総会両派決議につきみるに先立ち、共通の前提争点である控訴人の会員数とその入会時期につき以下検討する。入会要件が控訴人所定の入会申込書を控訴人代表者に提出することにつき、控訴人の代表権が理事長死亡後は新選任までの間各理事が個別に有することは前示のとおりである。

(二)  別表会員中(1)ないし(14)、(37)の計一五名の争いない会員がおそくとも、亡基治郎死亡時の昭和五五年一二月一〇日には既に会員となっていたこと、同(37)が同五六年五月一五日死亡し、同(33)ないし(35)が同年一〇月二五日退会し、右各同日後会員資格を失ったことは当事者間に争いがない。

(三)  次に〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は会員名簿の備え付けがなく、前示のとおり亡基治郎のワンマン的親族団体的経営がなされ、入会も亡基治郎の勧誘によりなされ、入会申込書を徴していたが、その保管も完全でなく、茂子や息子博、修も亡基治郎が誰を入会させていたかを本件紛争が生ずるまでの間ははっきり知らず、右紛争と共に、控訴人の関係書類と共に右入会申込書も茂子が引き上げた。

(2) 別表(22)、(23)は入会申込書は残存していないが設立の頃から取引先として出入りをなしていたため、亡基治郎の勧誘を受けて、同(29)、(30)は古くからの亡基治郎の知己であり、同(32)は控訴人設立時来の顧問弁護士であり、同(24)は同設立時来の顧問司法書士である同(6)の事務所に勤務していた関係上、いずれも亡基治郎の勧誘を受けて、同(24)は昭和五二年八月頃、その余の右の者らは夫々別表入会日時欄記載の頃に、各亡基治郎に対し、所定の入会申込書を作成提出して入会し、同(15)は茂子の相談役、同(20)は同(15)の知人である武道具店経営者、同(19)はその息子、同(21)、(33)ないし(35)は各右店の従業員、同(16)は茂子の知人、同(17)、(18)、(25)、(26)は各修の高校時代の友人、同(27)は茂子の娘で同(12)の妻、同(28)は修の妻である関係上、いずれも自己の意思に基づき自ら、または他人に託して別表入会認定書証欄記載の各入会申込書写の原本((27)については提出もれと思われる)を作成(なお日付については後に認定)し、同(25)ないし(28)、(36)は昭和五六年四月八日から同年一〇月一一日までの間に、理事茂子に対し、各右申込書を提出し、同(25)ないし(28)はその際入会申込日付を遡及して別表入会時のとおり記載した。

以上のとおり認められ、右認定に反する〈証拠〉は多分に推測的意見部分が多く俄かに措信できず、なお、〈証拠〉によれば、控訴人の会員数に関する主張、立証は会員数の点で本件各総会につき矛盾し混乱があり、昭和五六年三月一二日頃控訴人も別表のうち(22)ないし(26)、(29)ないし(32)を会員として意識せず、現に本件紛争前においても右の者等は総会の通知も受けず、会員扱いをされておらず、同人らも積極的に控訴人の経営に参加しようとしていなかったことが認められるけれども、〈証拠〉によれば、現に入会したことが明らかな同(6)、(32)についても亡基治郎の生前から右のように扱われ、同人らも参加しようとしなかったことが認められる点に照らせば右事実は前記認定の妨げとならない。

(四)  ところで〈証拠〉によれば、別表政春一派((19)ないし(21)、(33)ないし(35)は、政春哲平の子一平の外はすべて哲平の従業員で、吉田と政春哲平は旧来の知己であり、岸田、阪口は修の学友であるところ、同(33)、(34)は入会申込書の日付頃には肩書住居地に未だ居住しておらず、同(35)の居住は昭和五五年六月以降であったこと、同(17)、(18)は入会申込書日付の頃は若過ぎ、修の友人であるのに同人が正会員とされるより一年も前に入会せねばならない理由に乏しいこと、同(16)の入会申込書日付当日は彼岸の日曜日にあたり、わざわざ介護を要する亡基治郎を(16)が面接したとする吉祥院宅へ同行する余裕があったか疑わしく、同人の入会金領収書に捺印された住所印・円印は茂子が控訴人事務所で日頃使用していたものであることが夫々認められる。右事実関係に、別表(15)の入会認定書証欄記載の証拠中吉田が政春一派の入会申込書と共に自己の入会申込書を提出したとする時期の訂正供述部分について、その訂正経過、理由を首肯せしめる説明が乏しいこと、亡基治郎の生前で昭和四七年頃や、同五五年頃に控訴人主張のとおりの大量の会員を増員させる必要性や理由が存したことの主張、立証がないことを総合すれば、(三)項冒頭掲示の別表入会認定書証欄記載の証拠のうち、同(15)ないし(21)、(33)ないし(35)の入会申込書写中作成日付部分及びその余の書証中右日付に関する部分はいずれも到底措信できず、同(25)ないし(28)の入会申込書写中日付記載が措信できないことは前掲乙二〇号証に照らし明らかである。しかして、右日付記載が事実に合致しないことから直ちに右申込書全体が偽造であるとか、11.27総会後に偽造されたものであるとか、控訴人に対し提出されたのが本件各総会後であったとまで認定、又は判断しえないことはいうまでもない。

(五)  前項冒頭掲示各証拠、〈証拠〉及び前1項認定の本件紛争の経緯の事実関係を総合すれば、控訴人代表者茂子は昭和五五年一一月一八日頃、亡基治郎の後任理事長を選任して、控訴人の新理事陣容を固めて新出発するについて、実質的に控訴人の実権をにぎるために、理事長に隆、理事に親しい吉田を選任しようとして被控訴人らに容れられなかったため、爾後右意向を実現するために多数派工作をする必要が生じ、急拠自らに同調してくれる会員を入会させることとし、右の頃まず吉田を入会させ、ついで、博が招集した2.2総会までに急拠、吉田を通じて政春一派を、修を通じて同(17)、(18)を入会させたが、定款上理事長に対し申込書の提出を要するものと文字どおり考えていたためと、急拠の多数派工作をかくすために、亡基治郎の生前に、しかも、かなり以前に既に入会済であった如く装うこととして、別表入会日時のとおり日付を遡及させた申込書を受領したものと推認でき、右推認を妨げるに足る証拠はない。

他方、被控訴人らは昭和五七年一一月二〇日付で主張の一八名が入会した旨主張し、〈証拠〉には、博が右一八名の入会申込書を11.27総会において参集会員に回覧し、氏名を報告した旨の部分があるが、前掲当審証人修の証言及び弁論の全趣旨に照らし措信できず、右一八名が控訴人所定の前記様式の入会申込書を作成し、控訴人に提出したことを認めるに足る証拠はない。

(六)  結局、会員数の変遷は、2.2総会前には、別表(1)ないし(14)、(37)(以上争いない会員)、同(15)ないし(24)、(29)ないし(35)の計三二人であり、3.16総会後10.16総会前に右より同(37)が死亡により退会し、同(25)ないし(28)、(36)の五人が新たに入会し、計三六人となり、同五六年一〇月二五日の同(33)ないし(35)の三人の退会により11.27総会前には計三三人となるというべきである(なお、いずれも経過表(16)、(20)の各確定判決の既判力に抵触することはない)。

よって、右に反する双方の主張は理由がない。

5  10.16総会決議による後任者選任について(事実五2(一)、3(四)、六1(四))

(一)  控訴人は10.16選任理事が被控訴人らの後任者である旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、かえって〈証拠〉によれば、10.16総会招集者及び参集した茂子派理事に同調する会員らは、被控訴人らが既に定款八条二項二号に基づきみなし退会となり、定款一四条による地位を喪失済みであることを前提として、同一四条による地位を有する者は茂子派理事のみであり、これに吉田を加え、任期満了として再任し、併せて南を新たに理事に選任したものである(登記簿上も、同月一六日付で茂子派理事は重任、被控訴人らは退任、南は就任の各登記がなされている)ことが認められるので、むしろ、10.16選任理事のうち南は被控訴人らのいずれの後任であるかの対応特定なく、その余は被控訴人らの後任でないと推認できる。

(二)  のみならず右が後任者といえるとしても、10.16総会決議の存否・瑕疵の程度につき検討する。

(1) 控訴人は10.12茂子派理事会で茂子が理事長に選任され、以後理事の権限は同人のみが理事長として専有することとなったというが、同決議が不存在であることは前示のとおりであるのみならず、定款一二条の解釈上理事長に選任される資格は在任中の理事に限るものと解されるところ、茂子は右当時定款一四条による地位しか有せず、新理事に選任されていなかったから理事長に選任される資格はなく、この点からも右選任は無効であって、茂子は依然定款一四条による地位を有するにすぎない。

(2) 茂子が10.16総会を招集したこと、期間短縮同意によったこと、招集通知が博派会員を含め一五人に対しなされなかったことは控訴人の自認するところであり、前掲乙六、三四号証によれば10.16総会決議がなされたこと、右期間短縮に同意し当日出席した者は右通知のなかった一五人を除く二一人であったことが認められ、右に反する証拠はない。成立に争いない甲一、一四五号証によれば、本件定款には右期間短縮を許容する規定はなく(会員全員が同意したときは格別)、さらに招集通知を受けなかった者の中には中道的立場で控訴人の民主的発展を期待し総会の審議に役立つ意向をもつ顧問弁護士も含まれていることが認められる。右によれば三六人中一五人の、しかも反対派全員が会員資格を失っていないにも拘らず、失ったものとして取り扱い、もって総会参与権を害したものというべく、すべての会員に対し総会出席の機会を保障することが集団意思の形成に最小限必要な手続であり、しかも後記のとおり本件の如く会員が二派に分れきびしく対立している時にはより一層右保障が尊重されねばならない点に照らせば、右招集通知もれの瑕疵は重大であるというべく右瑕疵ある手続によりなされた10.16総会決議は不存在という外ない。

(三)  よって、被控訴人らの主張は理由があり、いずれにしろ、10.16総会による後任者の選任はないという外ない。

6  11.27総会における両派の決議について(事実一3(二)、五2(二)、六2(二))

(一)  昭和五六年一一月一六日、被控訴人博は理事長として同年一一月一二日ホテルフジタに11.27総会を招集し、控訴人主張どおりの議案一ないし三号を審議目的とする招集通知を別表(1)ないし(14)の争いのない会員のみに対しなしたところ、博派会員中同(14)は委任状により、その余は本人が、茂子派会員中、同(1)ないし(3)、(5)の本人が各出席したこと、当時確定判決会員(同(22)ないし(26))が控訴人会員の地位確認の判決をえ、それが確定済みであり、同(33)ないし(35)が昭和五六年一〇月二五日退会済みであったことは当事者間に争いなく、当時の会員が別表(33)ないし(35)、(37)を除く三三人であったことは前示のとおりである。

(二)  〈証拠〉を総合すれば次の事実が認められる。

(1) 博は10.12博派理事会で理事長に選任されたとして11.27総会を招集したが、会員総数を争いない会員一四名のみであるとの考えに立ってそれ以外の前示会員には招集通知を出さなかったところ、当日控訴人代表茂子らも博の理事としての招集権を一度認め出席することとして、別表(1)ないし(3)、(5)が出席した。

(2) 当日の総会の状況を記録するため、修はテープレコーダーを、博はビデオテープレコーダーを設置し、テーブルをはさんで同博を中心に博派会員別表(7)ないし(11)の五名が、反対側に右同茂子ら四名が席についた。冒頭博が出席者を確認しようとしたところ、隆ついで修が委任状があることを告げ、博が委任状の提出をうながしたが、修は誰が招集権者か、誰が司会するのかの質問をなし、重ねて同博が自分の招集通知に応じて来た限り委任状を確認し預るため提示を求めたが、修において、茂子らは右通知に応じて来たことを否定し、委任状は返還すべきこと、自分が持っているから博の眼前に提示する必要がない旨、「次見せる」などと応酬をなした。

(3) 博は委任状問題を打ち切り、同(14)の委任状出席を含め一四人になる旨告げ開会を宣したため、修、茂子からもっと茂子派の会員がいるのはどうなるかと質問したが関係ない旨応答せずに議長選出を宣言したので茂子派出席者全員が口々に異議をのべ、未だ議長選出前の問題が残っているから一寸待つよう求めた。しかし博はこれにとりあわず「まあ一応私に進行をまかせなさい」、「私が議長になります」とのべ、修、茂子、隆がなおも進行を待つよう異議をのべているなかで挙手による賛否を問い茂子ら四人の反対に拘らず、賛成多数とみとめようとしたため、茂子が確定判決会員五名の判決確定証明書を同(12)を介して提示したが、博はこれを無視して賛成多数で自ら議長となったから議案の審議に移る旨宣した。

(4) これに対し茂子が即刻異議をのべ、ついで修が「それではこちらでやりましょう」とのべ、茂子が何か言おうとしているなかを「ハイ議長に選任しました、賛成多数で」とのべ、以後、博派は博を議長として、茂子派は修を議長として、同時併行して、一ないし三号議案を各自派出席者に対してのみ賛否をはかって議事を進行した。

(5) かくして議案一号につき、博派は無効、茂子派は有効、解任の点は博派は可決、茂子派は否決、二号につき、博派は除名会員告知ないままで現理事を含め可決、茂子派は除名会員ない旨、三号につき、博派は同(8)ないし(11)及び(12)、(13)の名を上げ前者四名を理事に、後者二名を監事に各選任する旨、茂子派は同(22)、(23)の名を上げ理事に増員する旨、各派夫々全員賛成で決議したとして夫々閉会宣言をなした。そして後日博派は会員数を前記一四人、出席者(14)の委任状を含め一二人とし、右自派の議事内容の外に新会員一八名(控訴人主張の氏名をあげ)の入会承認報告の記載ある(甲一三〇号証)、茂子派は会員数を二六人、出席者二三人(本人、委任状の区分明示、会員氏名明示なし)、とし、右自派の議事内容とする(乙四四号証)、各議案を賛成多数で決議した旨の議事録を残した。そして、博派のビデオの撮影に成功したが、後日の操作ミスで画面が消失したとして提出しなかった。

以上のとおり認められ、〈証拠〉に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はなく、とりわけ、乙四八号証の一ないし一四が仮に作成名義人の意思に基づくとしても、11.27総会時までに果してその全部が作成済みで、かつ茂子派出席会員が持参していた事実については、これを肯定する前掲修の証言部分は、前記事実関係によれば、当然提示し、招集者にせめてコピーを預けるべきは当然であるにも拘らず、これをなさなかったことに首肯すべき事情が認められない点に照らし、到底信用できず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

(三)  前記(二)認定の事実関係に基づき検討するに、(1)前示のとおり茂子は10.12茂子派理事会で理事長に選任されていないのであるから、博は少くとも理事として総会招集権を有するというべきである、(2)博は会員が三三人であり、既に別件で申込書が提出され、中間派の別表(29)ないし(32)を含め、一四人以外にも会員の存在が十分疑われたに拘らず、自己の見解に固執して、招集通知を他の一九人に対し敢えてなさなかったものである。そして、委任状出席の立証がないので右一九人全員が、総会参与権を害されたこととなるところ、本件控訴人のように紛争のあるときは手続は厳正に守られるべきことは前示のとおりであるから、右招集手続の瑕疵は重大というべきである。(3)本件定款においても総会の議長は出席会員中より選出すべきものとされるところ(二一条)、通常の一般原則上は、招集した者が仮議長となり、議長の選任をなし、議長は出席会員の確認をなし、定足数を充足するとき右確認結果を報告の上開会を宣言し、ここに総会が適法に成立して議事に入ることとなり、議長は議事整理権限、委任状出席の場合の委任状の審査権を有すると共に、代理人は委任状を法人に提出することを要し(商法二三九条三項)、右審査に供することとなり、他方、会員は総会参与権の一種として議事進行上の動議を提出する権限を有し、なかんずく議長不信任動議は議長の裁量外として無視できないとされている。しかるに前認定事実関係によれば、博は茂子派の確定判決に言及しての別会員の存在、委任状の主張を誠実にとりあげず、右審査権を誠実に行使せず、十分審査すれば争いえない確定判決会員の委任状の存在だけでも茂子派が多数となる余地があったに拘らず茂子派の総会の根幹にかかわる会員についての質疑を無視し、委任状の提示を促すことに意をつくすことなく、簡単に提示のないものときめつけ、自派の多数により議長に選出されたとし、これに対する不信任動議と目すべき茂子派の異議を無視し、修の分派行動に藉口して、総会の成否を誠実に審査することなく、当初から茂子派抜きの審議を開始したものというべきである。そうすると実質的に定款二二条の総会成立の要件(会員数の三分の一以上にあたる一一人)なくしてなされたものに等しく、しかも、会議体による決議というためには賛否、各種の意見をもつ出席者全員が一個の会議体を形成し、一人の議長の指揮に従い意見を十分にたたかわせて、会議体としての一個の意思決定を決議の形で形成することが必要であるところ、博派は当初から二人議長、二個の会議体の形態で、茂子派が博議長の指揮下になく、その審議に加わっておらず、賛否に応答しているのは自派会員の賛成のみであるのに、反対意見の茂子派も審議に加わって賛成多数で可決したように主張しているに過ぎず、一個の会員総会の決議の体をなしていないというべきである。(4)茂子派についても、議事の進め方の一般原則により、別会員の存在による定足数の存否、委任状による出席を主張する限り、真実委任状が存在するならば、これを提示して、議長選任の多数決による決議の成否について十分誠意をつくして審議をなし、或いは議長不信任動議などにより審議をつくして議長の選任問題の結着をつけた上で、出席会員全員が一個の会議体を形成して一人の議長の指揮下で審議をなすべきであるのにかかわらず、会議体構成員として右手順を経ずに、一応選任されたとされる議長が存在するのに、これを無視し、別個の会議体を自派のみで構成して審議決議をなしたように装っているに過ぎず、ここでなされた決議なるものは会員全体によるべき会員総会の決議の体をなしていないというべきである。(5)以上の次第で、11.27総会両派決議とも、招集手続に重大な瑕疵が存するため、及び決議と評価できるものが不存在であるため、いずれにしろ法的に不存在というほかない。なお、控訴人は被控訴人博が自らなした右招集手続の瑕疵を主張することは許されない旨主張するが、招集をなすのは控訴人代表者としてなしたものであり、本訴で主張をなすのは定款一四条による地位という異なる立場と利益に基づき本来いつ誰との関係においても控訴人が主張立証をなすべき決議の成立要件の欠缺箇所を指摘するものであるから、許されないことはないというべく、控訴人主張は理由がない。

よって、11.27総会の各派決議の存在を主張する双方の主張はいずれも理由がない。

(四)  のみならず、11.27総会茂子派決議内容は、前認定より明らかなとおり、被控訴人ら理事の後任として、改めて10.16選任理事を選任する趣旨内容の再決議と認められない。

(五)  以上の次第で、11.27総会博派決議による被控訴人らの理事への新たな選任、同茂子派決議による被控訴人らの後任理事の選任、3.16、10.16決議の追認ないし再決議はいずれも認められないというほかなく、この点の請求原因、本案前の抗弁、本案の抗弁はいずれも理由がない。

7  以上の次第で、被控訴人らは、昭和五三年五月二九日理事に選任されたことにより現に定款一四条による地位を有するものと認められるところ、控訴人はこれを争うから、被控訴人らの右確認請求は理由がある。

四本件各決議不存在確認請求について

1  訴えの利益について

控訴人はるる右利益を争うところ、本件のような法人の決議不存在確認訴訟は、同無効確認、取消(ただし、特に法文により準用あるときに限る)訴訟と同様に、単にその訴訟を提起した者の個人的利益のためのみのものではなく、法人自体の利益のためにするものとして、しかも、認容判決の対世効(商法二五二条、一〇九条類推適用)により、当該法人及び内外の関係者間において同決議に基因して生じうる全紛争を抜本的に解決しようとする制度である(最一小判昭和四五年四月二日民集二四巻四号二二三頁参照)。したがって、法的に効力を有しない社員総会決議が法人登記簿に登記され外見上法人その他の関係人に拘束力を持つかのように見えるときは、右決議の不存在確認を求める利益があり適法というべく(前同最判同年七月九日民集二四巻七号七五五頁同判同三八年八月八日同一七巻六号八二三頁)、他方、右瑕疵ある役員選任決議の後に選任された役員が任期満了により退任し、かつその後の社員総会決議によって後任役員が新たに選任されたときは、なお右決議を争う訴えが法人のためにすることとなる特別事情のない限り右訴訟の利益を欠くに至り(前掲最判昭和四五年四月二日参照)、また、右瑕疵ある決議の後にこれと同一内容の再決議がなされたなど特段の事情があるときも確認の利益が失われることもある(最三小判同五八年六月七日民集三七巻五号五一七頁参照)というべきである。

そこで、右観点に立って本件についてみるに、被控訴人らが依然定款一四条による地位を有し、ついで11.27総会茂子派決議がそれ自体不存在であるのみならず、決議内容上も3.16、10.16両総会決議と同一内容の再決議でないことは前示のとおりである。そして、3.16、10.16両選任理事の後任者が現在まで控訴人において選任されていないこと、そのうち隆が昭和六一年一月二八日死亡済みであることは、当事者間に争いがなく、成立に争いない甲一四六号証によれば右未選任事実及び、本件各決議を原因とする本件各登記が抹消されないまま現存することが認められる。

右事実関係によれば、3.16、10.16両選任理事は現に本件各登記により有効に選任されたかのような外観を有し、かつ、隆を除く、その余の右選任理事は現に定款一四条による地位を主張していることは叙上の認定事実より明らかである。そうすると、この右選任理事の資格上の争いを抜本的に解決し、登記の効力を明らかにし、さらに、その抹消のために必要とされる同登記につき無効の原因あることを証する書面(非訟事件手続法一二四条、商業登記法一〇九条二項、一〇七条二項)として同原因である本件各決議の不存在又は効力を否定する対世効ある判決を求めることは法人としての控訴人自身のためにも必要かつ利益のあることというべきである。ただ、隆については既に死亡済みで、現に右定款一四条による地位を主張する余地がなく、死亡による退任登記も簡単容易になしうるところではあるが、同人の就任登記が現存するため、なお、右判示のところにより、同就任登記の原因である3.16、10.16各総会決議の効力を争う利益の存することはその余の右選任理事についてと同様というべきである。

よって、右に反する控訴人の本案前の抗弁は理由がない。

そこで、以下本件各決議の存否につき検討する。

2  2.2総会決議について(事実一5(一)、五3(二)、六3(二))

(一)  前示のとおり、当時の会員が三二人(別表(1)ないし(37)のうち、(25)ないし(28)、(36)を除くその余)であり博が主張内容の招集をなしたこと、招集通知、出欠の状況は控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いなく、博も少くとも理事として招集権を有することは前示のとおりである。

(二)  そうだとすると、通知もれが過半数の一九人にも達することとなる。控訴人は右通知もれの瑕疵が重大でないことをるる(事実五3(二)(1)(イ)(ロ)(ハ))主張し、前認定の本件紛争の経緯、本会員についての認定判示に〈証拠〉を総合すれば、控訴人は亡基治郎が私財を投じた公益法人であって、本来財産は控訴人にのみ属し、その経費は右資産によって支弁することとし、会員は右資産に対する持分をもつものでないに拘らず、亡基治郎生前から私益個人経営的な運営がなされ、前示亡基治郎の親族、とりわけ、茂子、博、修が中心となって業務執行をなし、清交社との経営区分も明確でなかったこと、別表会員中、同(6)、(22)ないし(24)、(29)ないし(32)は亡基治郎生前の古くから勧められて入会したものの、総会に招集されることもなく、自らも積極的に総会に出席しようともしなかったこと、本件紛争開始当初は右会員は博派(同(7)ないし(14))、茂子派(同(1)ないし(6)、(15)ないし(21)、(24)ないし(28)、(33)ないし(36))、両派に属さない中間派((22)、(23)、(29)ないし(32)、なお昭和五七年三月以後(22)、(23)も茂子派に組み入れられた)に分かれていたことが夫々認められる。しかしながら、控訴人のような公益法人においては会員は法人所有資産に対し、単に団体的な管理権を有するのみで、私益的観念的持分すら有せず、したがって会員相互関係も利益対立関係でなく共同運営者としての職務関係であり、会員の地位も法人の事業に協力参加する非利己的権利で、最高意思決定機関たる総会における表決権(意思表示)も財産所有者としての固有権に基づくものでなく団体共通目的に奉仕するむしろ職務的なものである。したがって、前示亡基治郎らの生前における本件紛争前入会会員を殆んど総会等に参加させなかった控訴人の運営は前記公益法人の理念に反すること著るしく、紛争下であればこそ、民主的に会員全員とりわけ右両派に組み入れられていない中間派のきたんのない意思表明の機会が確保されることが、右公益法人の理念に副う所以というべきであって、総会参与権は厳正に尊重される必要があり、旧来の公益法人の理念に反する運営を以って瑕疵の軽重をみることは許されないというべきである。よって、控訴人の前記(イ)(ハ)主張は理由がなく、(ロ)は各個別にみるべきもので、控訴人主張どおりの出席状況としても、なお通知もれの一九人のうち一四人が欠席していることとなる。右にみたところよりすれば、このような大量の会員が総会参与権を奪われたというべき右招集手続の瑕疵は重大というべきである。

(三)  のみならず、そもそも当日控訴人主張の決議なるものがなされたかについてみるに、同主張に副うものとして〈証拠〉があるが、右両会議事録(乙一、二号証)には博派理事の署名がえられないままである上、〈証拠〉及び前認定の本件紛争の経緯に照らし、また右乙号証相互に議長が隆か博か、併行招集の理事会、総会の前後、総会が続行になったか否かにつき矛盾がある点に照らし俄かに措信できず、他に控訴人主張の2.2総会、及び理事会の決議があったことを認めるに足る証拠はない。かえって、右対照に供した証拠に〈証拠〉を総合すれば、当日の理事会兼会員総会は冒頭から議長博が、会員資格を称する政春一派会員の資格を認めず退場を求め、同人らがこれに反論し、片岡らをののしることがあり、緊張し、この間議長を無視して政春一平が吉田の理事選任の賛否を別表(1)ないし(4)、(8)ないし(11)に求めたことがあるに止まり、ついで修が同(37)の委任状がある旨告げたことから、その撤回書を提示する博との間にその真偽をめぐり、中断したり、ついで修から控訴人振出清交社宛の額面二億円の約束手形が当日到来し、交換にまわっているが決済不能である旨の爆弾発言というべき発言があり、その処理をめぐってさらに混乱が生じ結局結論がまとまらないままに同年二月一一日に続行期日をもつことで閉会した事実がうかがえ、右政春の質問に対する応答の多数を以って決議が成立したといえないことはいうまでもない。

(四)  よって、この決議成立の控訴人主張は理由がなく、右(二)(三)いずれの理由からも2.2総会決議は不成立というほかない。

3  3.16総会決議について(事実一5(二)、五3(三)、六3(三))

(一)  3.16総会は定款二〇条による請求に基づくものであり、隆が理事長として主張内容の招集をなし、同通知が別表(22)ないし(24)、(29)ないし(32)の七人に対しなされず、当日は同(7)ないし(14)の博派会員が欠席したことは当事者間に争いなく、隆が理事として総会招集権限があり、当時の会員が前2同様の三二人であることは前示のとおりであり、〈証拠〉によれば、同(10)宛の招集通知は到達せず、同(13)宛の同通知は三月七日以後に延着したこと、〈証拠〉によれば、右総会の開催請求は控訴人主張の八名の会員から同主張内容の目的でなされ、当日の出席状況は控訴人主張どおりであり、そこで同主張どおりの決議がなされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  右によれば、右開催請求者はすべて会員であり、被控訴人ら主張の瑕疵はないが、招集通知が結局八名に対しなされなかった招集手続上の瑕疵が存するというほかない。そこで右瑕疵が重大か否かつきみるに、たしかに数量的比率は三二分の八と必ずしも大きいともいえないが、前認定のとおり会員は三派に区分でき、博派、茂子派は常にそれぞれ一体として行動しており、茂子派は多数派工作のため人数は多いが同一意見しか期待できないのに対し、(22)ないし(24)も亡基治郎生前からの古い会員であり、3.16総会当時は茂子派に属していなかったものであり、同(32)が前示のとおり控訴人の将来に積極的関心をもっており、誠実に招集をなし、意見表明の機会があれば右両派に偏しない意見の表明がなされた可能性も否定できず、右分派別に比率をみれば三分の一ともいえるのであって、右八名に対する総会参与権を害した前記瑕疵はなお重大というべきである。

よって、3.16総会決議も招集手続の重大な瑕疵により法的に不存在というべきであって、控訴人の主張は理由がない。

4  10.16総会決議については、それが不存在であることは前示のとおりである。

5  3.16、10.16各総会決議の瑕疵の治癒について(事実五4)

叙上のとおり、右両決議はいずれも不存在であるから、後の決議により追認ができる余地はない(民法一一九条参照、同一内容の再決議をなしうるに過ぎず、11.27総会両派決議が不存在であることは前示のとおりである)から、この点の控訴人の抗弁も理由がない。

6  以上の次第で、被控訴人らの本件各決議の不存在確認請求は理由がある。

五本件各登記の抹消請求権について

1 控訴人は民訴二三七条二項に反し再訴が許されない旨主張するが、同項は裁判を徒労に帰せしめたことに対する制裁的趣旨の規定であり、同一紛争を蒸し返して訴訟制度をもて遊ぶような不当な事態の生起を防止する目的に出たものにほかならず、右趣旨、目的に反しないことが明らかである旧訴の取下げ者に対し、一律絶対的に司法救済の道を閉ざすことを意図するものではない(最判昭和五五年一月一八日判例時報九六一号七四頁)ところ、弁論の全趣旨によれば被控訴人ら主張の経過事実が認められるので、本件各登記抹消請求の訴えの追加は民訴法二三七条二項で許されない場合にあたらないものというべきである。

2  請求原因4は当事者間に争いなく、叙上のところより、本件各登記の登記事項たる各理事の就任の原因である、本件各決議が不存在であるから、登記事項につき無効の原因がある(非訟事件手続法一二四条、商業登記法一〇九条一項二号)というべきであって、当事者たる控訴人から無効の原因あることを証する書面を添付して抹消を申請することができるものというべきである(前同一〇九条二項、一〇七条二項)。そして、本件各決議の不存在確認請求認容判決が右書面にあたることはいうまでもなく、しかも、被控訴人らは定款一四条による地位に基づき各個別に控訴人を代表する権限を有することは前示のとおりである。そうすると、被控訴人らは本判決確定の末は、自らその職務行為として控訴人を代表して前同法一〇九条二項により本件各登記の抹消登記を申請することができ、それで足るというべきである。したがって被控訴人らは控訴人に対し無効原因ある本件登記の抹消請求をなす私法上の請求権を有するとしても、同請求をなす訴の利益はないというべきである(最一小判昭和六一年九月四日判例時報一二三八号八一頁)。

よって、結局、被控訴人らの本件各登記抹消請求の訴えは不適法というべきである。

六結論

以上の次第で、被控訴人らの定款一四条による地位の確認請求は理由があり、同旨の原判決主文1項は相当であり、これに対する本件控訴は理由がないので棄却することとし、趣旨訂正に基づき同主文1項を主文2項のとおり訂正することとし(なお、原判決主文2、3項認容にかかる請求は取り下げ済みである)、つぎに附帯控訴にかかる被控訴人らの当審における追加請求につき、本件各決議の不存在確認請求は理由があるので認容し、本件各登記の抹消登記手続を求める訴えはその利益を欠き不適法であるので却下することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条、九三条、九二条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官潮久郎 裁判官杉本昭一 裁判官三谷博司)

別紙登記目録

〔一〕 昭和五六年二月一三日受付第一四〇号

〈住所省略〉

理事  吉田市太郎

昭和五六年二月二日就任

〔二〕 同年三月二六日受付第三一七号

〈住所省略〉

理事  森蔭彬韶

〈住所省略〉

理事  阪口晃

〈住所省略〉

理事  芝田英

以上三名昭和五六年三月一六日就任

〔三〕 同年一〇月一七日受付第一七六二号

理事平松博、理事片岡憲男、理事太田隆三、理事荻野武、理事中川清

以上五名昭和五六年一〇月一六退任

〈住所省略〉

理事  平井隆

〈住所省略〉

理事  平松茂子

〈住所省略〉

理事  平松修

〈住所省略〉

理事  平井博

〈住所省略〉

理事  吉田市太郎

以上五名昭和五六年一〇月一六日重任

〈住所省略〉

理事  南貞子

昭和五六年一〇月一六日就任

別紙経過表

(1) 56.2.15頃 被控訴人らより控訴人に対し、2.2総会理事会選出の理事長隆、理事吉田の職務執行停止の仮処分申請(甲三号証の一)

(2) 3.1  茂子派会員八名臨時総会招集請求(乙三〇)

(3) 3.16  3.16総会理事会、隆が理事長として招集、別表(6)(16)(18)を理事に、隆を再度理事長に選任と主張(乙三、四、三三)

(4) 3.28  (1)の認容仮処分決定(京都地裁五六(ヨ)一四七号)(甲三の二)

(5) 4.3  被控訴人らより控訴人に対し、3.16選任理事の職務執行停止の仮処分申請(甲四)

(6) 5.18  茂子派招集の56.5.19付社員総会開催禁止仮処分決定(同五六(ヨ)二六号)(甲五の二)

(5.29  両派の争いのない理事の任期満了)

(7) 7.6  茂子代表控訴人より博に対し「専務」解任通知(甲一三四)

(8) 7.21  博派清交社に対抗して同社同様の事業をなす 西山石材株式会社が設立される(乙三八)

(9) 7.28  別表(1)ないし(6)、(15)ないし(21)、(33)ないし(35)会員地位保全 仮処分申請(同五六(ヨ)六三九号)(甲八の一)

(10) 10.12  10.12両派各理事会決議で茂子、博共に理事長選任主張(甲一〇八)(乙二〇)

(11) 10.15  同日後茂子派同(7)ないし(14)のみなし退会主張

(12) 10.16  10.16総会茂子理事長として招集、10.16選任理事の選任主張(乙六、三四)

(13) 12.28  被控訴人らの会員地位保全、吉田・南の理事の職務執行停止仮処分決定(甲一一の二)

(14) 57.1.19  同五六(ヨ)六三九号で双方和解交渉開始、結局不成功(甲九一、一四四)

(15) 1.24  博派代表控訴人より同(15)ないし(21)に対する会員地位不存在確認判決言渡(甲105)

(同五七(ワ)一九二五号)

(16) 3.1〜8.6  確定判決会員各欠席判決で勝訴 甲一二四の一〜九一二五の一〜八 一二六の一〜一一

(17) 10.30  (9)の仮処分申請取り下げ(甲19)

(18) 11.19  3.16選任理事の理事の職務執行停止仮処分決定((5)を認容)(甲16)

(19) 11.27  11.27総会双方両派決議主張

(20) 60.10.29 (15)の控訴審判決(政春一平、哲平、橋元の控訴棄却、その余取消、請求棄却)、後日確定(乙四六、乙六四、六五)

別紙社団法人京都西山霊園定款

第一章 総則

第一条 この法人は、社団法人京都西山霊園と称する。

第二条 この法人は、事務所を京都市南区吉祥院石原野上一二番地におく。

第三条 この法人は祖先崇拝とその祭祀並びに人間尊厳の理念を涵養育成するため、国籍、宗派、貴賤貧富、性別等の如何を問わず、京都府下全般を通じて国難に殆じた英魂、交通事故の犠牲となった和魂、無縁の儘放置されている寂魂をはじめとして、一般家庭、集団に関係のあるあらゆる霊魂を追悼祭祀するため、その遺骨の埋葬に必要な文化的墓地及び納骨堂を提供する外、祖先崇拝に対する啓蒙宣伝を通じて、生命の根源の認識と尊重とを昂めることを目的とする。

第四条 この法人は、前条の目的を達成するために、次の事業を行う。

1 公園墓地及び納骨堂の造成管理

2 交通事故犠牲者等の合同慰霊祭

3 無縁仏の無償収容祭祀

4 貧困家庭への墓地の廉価提供及び一般家庭への墓地使用権の供与

5 公園墓地に附属した福利慰安施設の設備及び管理

6 その他各号に附帯する一切の事業

第二章 会員

第五条 この法人の会員は次の二種とする。

1 正会員 この法人の目的に賛同して入会した個人及び法人

2 名誉会員 この法人に功労のあった者で総会に於て推薦された者

第六条 正会員は、総会に於て別に定める冥加金を納入しなければならない。

第七条 この法人の会員になろうとする者は入会申込書を理事長に提出することにより会員の資格を得る。

第八条 この法人の会員は、その旨を理事長に届出て退会することができる。

この法人の会員は次の各号の1に該当するときは、退会したものとみなす。

1 死亡又は解散したとき

2 冥加金を一年以上納入しないとき

第九条 会員にして、この法人の名誉を損し、又はこの定款に反するような行為のあったときは、総会の決議により除名することができる。

第一〇条 既納の冥加金その他の拠出金品は、返還しないものとする。

第三章 役員

第一一条 この法人に、次の役員をおく。

理事 二名以上 一四名以内

この内 理事長 一名

専務理事 一名

監事  二名

2 理事及び監事は、会員の内から、総会の決議により選任する

3 理事長及び専務理事は理事の互選とする

4 理事及び監事は、相互に兼ねることができない

第一二条 理事長はこの法人を代表し、会務を統轄する

2 専務理事は理事長を補佐して会務を処理する

理事長に事故があるときは専務理事がその職務を代理する。

理事は理事会を組織し、会務の執行を決定する理事は民法第五九条の職務を行う

第一三条 理事及び監事の任期は夫々3年とする。

但し、再任を妨げない。

2 補欠のため就任した役員の任期は、前任者の残任期間とする。

第一四条 役員が辞任又は任期満了した場合には、後任者が就任するまでは前任者がその職務を行うものとする。

第一五条 この法人の事務を処理するために、書記等の職員をおく。

2 職員は理事長が任免する

第四章 会議

第一六条 会議は総会及び理事会とし、総会を定期総会及び臨時総会とに分ける。

第一七条 総会は、会員をもって構成する。

2 理事会は、理事をもって構成する。

第一八条 総会は、この定款に規定するものゝほか、次の事項を議決する。

1 事業計画の決定

2 事業報告の承認

3 予算を伴わない権利の放棄又は義務の負担

4 その他この法人の運営に関する重要なこと

2 理事会はこの定款に規定するものゝ外、次の事項を議決する。

1 総会の議決した事項の執行に関すること

2 総会に付議すべき事項

3 その他総会の議決を要しない会務の執行に関する事項

第一九条 会議は理事長が招集する

2 会議を招集するには、会議を構成する会員又は理事に対し、会議の目的たる事項及びその内容並びに日時、場所を示して会日の一〇日以前に文書をもって通知しなければならない

第二〇条 定期総会は毎年五月に開催する

2 臨時総会は、理事会が必要と認め、又は会員の五分の一以上又は監事から会議の目的たる事項を示して請求があったとき開催する

3 理事会は必要なとき随時開催する

第二一条 総会の議長は、その総会において出席会員の内から選任する

2 理事会の議長は理事長がこれに当る

第二二条 会議は、これを構成する会員三分の一以上又は理事の二分の一以上の出席がなければ、開催することができない

第二三条 会議の議事は、出席会員又は理事の過半数の同意をもって決し、可否同数のときは、議長の決するところによる

第二四条 会議の議事については、その経過の要領及びその結果につき、これを議事録に記載して、議長並びに出席理事及び監事が、これに記名捺印することを要する

第五章 資産及び会計

第二五条 この法人の資産は、次の各号をもって構成する

1 冥加金

2 寄付金品

3 資産から生ずる収入金

4 事業に伴う収入金

5 その他の収入金

第二六条 この法人の資産は、理事長が管理し、その方法は、理事会の決議による

第二七条 この法人の経費は、資産をもって支弁する

第二八条 この法人の収支予算は、毎会計年度開始前に、総会の決議を経て定め、収支予算は、毎会計年度終了後2ケ月以内に、その年度末財産目録と共に、監事の監査を経て総会の承認を得なければならない

第二九条 この法人の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三一日に終る。

第六章 定款の変更及び解散

第三〇条 この定款は、理事会の議を経て、総会に於て会員の三分の二以上の同意を得なければ、変更することができない

第三一条 この法人は民法第六八条一項第二号から第四号まで及び第2項の規定により解散する。

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